ワサビ [野菜の花]
安曇野に春を告げるワサビの白い花。アブラナ科のワサビは、茎の先に白い十字形の花を多数つけます。ワサビはすり下ろして刺身の薬味などに使う根の部分だけでなく、葉や茎、花も食べることができます。地元ならではの食べ方が、「ワサビの花蒸し」。安曇野では春になるとワサビの花茎が束ねて売られます。これを各家々で買い求め、その家の作り方、味つけで花蒸しをこしらえ、酒の肴やお茶請けとして味わいます。
ワサビの記事を書いていてなんですが、実はワサビが苦手です。香辛料は、口の中が熱くなるようなホット、鼻にツンと抜けるシャープに分けられますが、このシャープの類がどうも苦手なんです。苦手ではあるけど、可憐な花を見たくて、安曇野まで足を運びました。
松本盆地のほぼ中央に位置する安曇野市穂高。訪れた日の朝の気温は氷点下1度。吐息も白く、凛とした空気に眠気も吹き飛びます。穂高川沿いの「穂高川わさび園」では、湧き水が勢いよく流れていく水路から水蒸気が上がっていました。ワサビ畑の向こうには、残雪を頂く北アルプスの山々。畑では、ワサビのハート形の葉についた霜が、朝日を受けて解け、キラキラ輝いています。畑を見ると、黒い布のようなものがワイヤーに巻き取られています。これは寒冷紗といって、ワサビが熱さに弱いため、夏の直射日光避けるための日除け。もう間もなく、ワサビ畑はこの黒いビニールシートで覆われるそうです。花を見られるのは、わずかな間だけとか。タイミングよく、花を見ることができたようです。
一般的にワサビは渓流に石垣を積み上げたワサビ田で栽培されますが、穂高のワサビは全国でも珍しい平地式栽培。砂を盛り上げて畝をつくり、ワサビを植えていきます。砂利を敷いた畝の間を流れるのは、北アルプスの清らかな伏流水。ワサビは肥料を与えなくても育ちますが、きれいな水が流れていないと育ちません。まさに、自然のなせる技なのです。アカシアとポプラの並木に囲まれた、日本一の広さを持つ「大王わさび農場」にも足を運びました。広いワサビ園をブラブラ歩いていると、10時の休憩なのでしょうか、おじさんがふたり、畑の脇で休んでいました。訊けば、掘り取ったワサビは、親イモに子イモが12本から15本ほどできるのだとか。「広い畑ですね」とおじさんに言うと、「うちの庭の方が広い」と、冗談のような、もしかしたら本当かもと思えるような言葉を返して笑いました。
撮影/'97.3.31
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