トウガラシ [野菜の花]
<栃木県那須烏山市・茨城県常陸大宮市> インドのカレーは大航海時代にイギリスに渡り、日本へはイギリス経由で伝わりました。イギリス式のカレーは小麦粉でとろみをつけたもので、日本の主食であるごはんにかけて食べるには好都合でした。そして、タマネギ、ニンジン、ジャガイモが北海道で大量に生産されるようになり、具として使われて現在の日本式カレーが出来上がっていったのです。日本式カレーの基本のスパイスはターメリック、クミン、コリアンダー、トウガラシの4種類。このうち辛さを受け持っているのがトウガラシです。
かつて昭和40年代までまでは栃木や茨城でも広くつくられ、輸出もされていたそうですが、今は小規模な畑が点在するだけとか。栃木県のいくつかの役場に問い合わせると、大田原市のトウガラシ加工専業の会社を紹介されました。電話を入れると社長さんが「私も最近、畑を見てまわってないから、ご案内しましょう。会社が休みの土・日だと一番いい」という返事。花が咲く頃をお聞きし、日にちを打ち合わせて出かけました。
休日の会社へ伺い、話をうかがった後、畑を案内していただきました。畑が広範囲に渡って点在しているため、次の畑へは数10km先の隣町まで走らなければなりません。いや、大変でした。昔のトウガラシの栽培を記録したフィルムがあるからと、帰ってきてから事務所で見せていただきました。一面、真っ赤。上を向いて実をつけるのは、「栃木三鷹」というトウガラシ。社長さんの祖父・父と二代でつくり上げた、辛みの強い品種だとか。映された年代を聞き忘れましたが、少し前までこんな風景が広がっていたのかと思うと、残念でなりません。今は、こちらで育てた種を中国へ持ち込み、向こうで栽培して輸入しているそうです。前年訪ねた場所を記しておいた地図を頼りに、翌年、自分一人でもう一度訪ねてみました。地図があるから大丈夫だろうと思っていたのですが、人間の記憶など当てにならないもの。すぐ近くまで来ているはずですが、記憶がそこで途切れています。それでも3カ所をなんとか見つけ出せました。トウガラシはナス科で、白い小さな星形の花を、うつむき加減に咲かせます。葉陰にひっそりと咲くため、遠目には目立ちません。「トウガラシがトウガラシとして自己主張する完熟期の10月もいいですよ」。社長さんに言われた通り、秋にも訪れてみると、空に向かって逆立ちした実が赤く色づき、燃えるような美しさを見せていました。
撮影/'99.7.25・10.10(実)
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