キュウリ [野菜の花]
ヒマラヤ山麓のインド側が原産のキュウリ。紀元前1000年頃に西アジアで栽培化され、ヨーロッパ、中国北部、中国南部の三方に広がっていきました。日本には中国を経て10世紀またはそれ以前に渡来。切り口が徳川家の葵の紋に似ていることから、武士たちはおそれ多いと食べなかったそうです。一般に食べられるようになったのは江戸時代末期から。世界で400以上のもの品種があるといわれていますが、日本で栽培されているのはほとんどが細長い白イボ系のキュウリ。生食用として見栄えがよく、皮が薄くて歯切れのよいのが特徴です。
福島県須賀川市は、夏秋キュウリの一大産地。夏に高温になることと、秋に北西からの冷たい風の影響が比較的少ないことが、キュウリ栽培に適しています。いつものように当てずっぽでキュウリ畑を探していると、野球場の近くで、広くはないけれどアーチ状に蔓を這わせている畑を発見。おそらく、キュウリの畑に違いありません。ちょうど、農作業をしていたお父さんがいたので、畑を見せてもらいました。キュウリは生長のスピードが速く、5月に苗を植えるとどんどん蔓を伸ばすそうです。このときは、花径3cmほどの黄色の花を、いくつも咲かせていました。収穫できそうなキュウリもぶら下がっています。
話をしているうちに自慢したくなったのか、お父さんが作業後小屋からきれいに箱詰めしたキュウリをわざわざ出してきて見せてくれました。ツヤツヤで、見るからにおいしそう。箱に描かれた「須賀川キュウリ」の文字が、ブランド力を見せつけています。太陽の光をたっぷり浴びた須賀川のキュウリは味が濃く、歯ごたえもよくて、塩を振るだけでおいしいそうです。キュウリは水分が90%以上というから、暑い夏にはぴったりの野菜ですね。
撮影/05.6.25
ソバ(2) [ハチミツの花]
ひとくちにそばといっても実に多彩。一口ほどの量ごとに束ねた「ぼっち盛」という独特の盛り方で出てくる戸隠のそばは、日本三大そばの一つに数えられます。繊細でコシがあり、とてもおいしい。好きな人が多いこのソバの花から採った、ソバのハチミツがあるのをご存知でしょうか。「えッ、これがハチミツ?」と、思わず言葉に出してしまいそうなほど、変わったハチミツです。まず、色が真っ黒。味も渋味があり、お世辞にもおいしいとは言えません。他のハチミツに比べて鉄分、カリウム、ポリフェノールの一つであるルチンが豊富に含まれるためです。健康維持には有効なハチミツですが、日本では大半が脱色脱臭して加工用にまわされているそうです。フランスではこのソバミツが人気で、高級品として扱われているとか。ところ変われば、ですね。
白い小さな花が密集して咲くソバの花は、雌しべが雄しべより長い「長花柱花」と、その逆の「短花柱花」の2つのタイプがあります。ミツバチが長花柱花に行くと頭に花粉が付き、短花柱花に行くと胸に花粉が付く。つまり、ミツバチがミツを求めてソバの花を訪ねまわることで、うまく受粉が行われるわけです。ソバの戦略が、見事に成功しています。ソバの花は、朝7時頃から開き始め、11時頃にはだんだん花を閉じていきます。戸隠は昼夜の気温差が大きく、霧が発生しやすい地域。隣の信州新町では晴れていても、山道を上って戸隠に近づくにつれて霧や雲が太陽を隠してしまいます。ですが、この日はいい天気になりました。朝早く着いたせいか、ソバの花が朝露にぬれています。花に近づいてみても、ミツバチの姿はありません。代わりに、いろんな虫たちがソバ畑を訪れています。ソバは成長が早く雑草が生えません。タデ科で虫の被害が少ないことから、農薬を必要としないからでしょうか。
小一時間ほどぶらぶらしていると、ブーンというミツバチの羽音が聞こえてきました。太陽もだいぶ高くなり、気温も上がってきて、ようやく数匹のミツバチを見かけるようになりました。これだけの広さのソバ畑なら、もっとミツバチがいてもいいという気がしますが、ソバ畑はかなりの広さがあるので、見かけた以上に多くのミツバチが飛びまわっているのかもしれません。クセのあるソバハチミツの販売には工夫がいるかもしれませんが、全国的にソバ畑は増えているそうなので、ミツ源としても希望が持てそうです。
撮影/'08.9.17
クロッカス [作物の花]
透明な容器に水を入れ、球根を乗せて、根が伸びる様子や芽が出て成長していく様子を観察し、記録していく。小学生のときにやったクロッカスの水耕栽培ですが、大人になってそのクロッカスを、意外なところで見かけました。それは、田んぼ。新潟県村上市(旧荒川町)は、稲作と球根栽培で知られる地域で、米を収穫した後の水田を利用した水田裏作としておこなっているのが、クロッカスやチューリップの球根栽培です。特にクロッカスは作付面積、出荷量ともに全国シェアの50%を超え、球根生産日本一を誇ります。
栽培されているのは海に近い金屋地区で、3月上旬頃から田んぼを彩り始めます。花は黄、白、紫、紫の絞りの4種類。クロッカスにも流行があるそうで、以前は紫の花が好まれたそうですが、出かけた頃の流行は黄色、それもいくつもの花が次々に咲いていくものが人気とか。今は、何色が人気なのでしょうか。50戸ほどの農家がそれぞれ自分の田んぼでつくっているため、1カ所にかたまっているわけではなく、広範囲に渡って点々と見られます。
天気がいいといってもまだ3月。風は冷たいし、畑の向こうにくっきりと見える飯豊の山々にも、まだ多くの残雪があります。北風が当たる場所は、やはり花の咲きが遅いようです。ちょうど、畑仕事をしていたお母さんがいたので、いろいろ聞いてみました。田んぼに植えられたクロッカスは、チューリップなどと同じで球根を育てて出荷するためのもの。種はオランダから輸入しているそうです。種は5〜6年で弱るため、その度に輸入。その種にも当たり外れがあり、お母さんのところの種は「今年取り寄せたものはよくなかった」とか。種は1回取り寄せると100万円近くかかるらしく、ギャンブルに近いそうです。手間のかかる仕事でもあり、今の若い人たちでやろうという人はいないようですね。
「鳥がついばんじゃって。蜜でも吸うんだろうかねぇ」。お母さんが指差す方を見ると、クロッカスの花びらが散乱していました。後でダイアナ・ウェルズの「花の名物語」を読んでいたら、「クロッカスの球根は鼠の大好物であり、リスも根を掘り返すし、鳥たちも花びらをつつくのが好きだ。鳥は特に黄色の花が大好きだ」と書かれていました。言われてみれば、荒川の畑で鳥がついばんでいたのも、黄色のクロッカスだったような気がします。それにしても、黄色の花を狙うのはどうしてなんでしょう?
撮影/'97.3.19
マルメロ [くだものの花]
マルメロはバラ科の落葉樹。花は、同じバラ科のリンゴやナシが一芽からたくさん咲くのとは異なり、先端に花径4〜5cmの大きな花を一つずつつけるのが特徴です。花びらは5枚で、花色は白または淡紅色。このマルメロの花を気軽に楽しむなら、諏訪湖畔の「かりん(マルメロ)並木」がお勧めです。この並木は、湖畔道路が完成した昭和41年春に、市が「諏訪市の特色づくりを」と植樹し、育てたもの。湖畔公園付近からヨットハーバーの先まで約1,200mの間に約200本植えられています。ちなみに、本来のかりんも30本植えられているとのこと。見比べてみるのもいいかもしれません。
諏訪湖スタジアム近くで、リンゴなどとともにマルメロを栽培している果樹園を見つけたので見せてもらいましたが、まだ蕾の状態。諏訪湖ほとりの並木と、距離はそれほど離れていないのに、開花にはだいぶ差があります。「米もやっているからこの時期は大変だよ」と、果樹園のお父さん。果樹園の周りは田んぼで、ちょうど田植えシーズン。どの農家も苗を運んで、田植え作業に取りかかっています。天気も上々、絶好の田植え日和です。
蕾じゃ仕方ないと、果樹園周辺を散策していたら、諏訪湖スタジアムの前を流れる宮川の脇に、ちょうど花を咲かせていたマルメロの畑を発見。引き寄せられたという感じですが、なるほどマルメロの花言葉は「誘惑」。本数はそう多くはありませんが、堤防より低い土地に植えられているので、花がちょうど目の高さになり、観賞しやすくなっています。朝の散歩でしょうか、犬を連れた女性2人や若いカップルなどが横を通り過ぎていきますが、マルメロの花には目も止めない様子。地元ではやはり、見慣れているのでしょうね。
撮影/'99.5.9
バジル [野菜の花]
夏休みも終わりというとき、見たことがない植物がまとまって葉を茂らせ、花を咲かせていました。白い花は初めて見ますが、葉はどこで見たような気がします。なんだっけと思いながら、さらに1kmほど進むと、別の畑でも同じ植物が花を咲かせていました。こちらでは、たまたま畑の手入れをしていたお母さんがいたので、何を植えているのか訊いてみました。すると、「バジル」とのこと。あぁ、言われてみれば納得。葉も見覚えがあります。
緑のつややかな葉は、香りがよく、生で食べても加熱してもおいしい。ところが、花が咲くと花に養分が取られ、葉のフレッシュさは失われて硬くなってしまうのだとか。花芽がついたら摘んでしまう人もいますが、この畑のバジルは種を取るために咲かせているのかもしれません。
バジルにはさまざまな種類がありますが、代表的なのがスイートバジル。甘くさわやかで深みのある香りが特徴です。ヨーロッパでは若葉の香りが好まれ、ハーブの王様として親しまれています。バジルといえば、イタリア料理やフランス料理に欠かせないハーブの一つ。日本でも今や、おなじみですね。バジルをペースト状にしたジェノベーゼソースは、パスタはもちろん、肉や魚のソテーのソースにしたり、ゆでたジャガイモと和えたり、さまざまな料理に使えます。特にトマトとの相性は抜群で、トマトとバジル、モッツァレラチーズのマルゲリータピッツァは有名ですね。ちなみに、トマトの近くにバジルを植えておくとトマトが甘くなるそうですよ。
インド原産のバジルはシソ科の多年草ですが、耐寒性がないため日本では1年草として扱われています。草丈が60〜90cmにもなり、夏になると花穂を伸ばして白や紅色がかった小さな花を咲かせます。日本に伝わったのは江戸時代で、当時は漢方薬用の植物として利用していたようです。バジルの種を水に浸しておくと、水を吸って表面がゼリーのように膨張するので、これで目に入ったゴミを取り除いていたのだとか。和名の「目ぼうき」は、ここから来ているそうです。ハーブの花もいいものですね。
撮影/'11.8.30
ソバ(1) [作物の花]
標高1000m前後の戸隠は、昼夜の気温差が大きく、霧が発生しやすいのだそうです。そのためか、何度か訪れていますが、すっきり晴れたことがありません。花が咲く9月に向かったのは、戸隠そば博物館近くの広いソバ団地。この日も、どんよりとした雲に覆われたまま。一瞬日が差し、あわてて畑全体が見渡せる場所まで斜面を駆け上ったのですが、1枚撮ると太陽はまた雲に覆われてしまいました。
ソバはタデ科の1年草。原産は中央アジアから中国東北部とされ、日本へは朝鮮半島を経由して伝来し、10世紀頃から一般に栽培され始めました。白い小さな花が密集して咲きますが、かなり前に長野県阿智村で赤い花が咲く「高嶺ルビー」という品種のソバ畑を見たことがあります。白い花も可憐ていいですが、赤い花もまた違った魅力があります。ソバの花は、朝7時頃から開き始め、11時頃にはだんだん花を閉じていくので、花を見るなら午前がお勧めです。葉もハート形をしていてかわいいです。織物の産地として知られる新潟県小千谷市もそばの産地。ちぢみ織りの糸を縒るときに、毛羽立ちを抑える糊づけにフノリという海藻を使いますが、魚沼地方ではこのフノリをつなぎにしてそばが打たれてきました。このフノリそばを、杉板をへいで(剥いで)つくった「へぎ」と呼ばれる器に持って出されます。
魚沼コシヒカリで知られる通り、小千谷は米もおいしい地域。ソバも昔から作られてきましたが、開田によって稲作に転じていきました。減反政策によって、転作作物としてまたつくられ始めましたが、面積消化作物という意味合いが強かったようです。そこで、名実ともに魚沼をソバ産地にしようと、そば屋、生産農家、県が一体となった研究会を発足。一体となったソバの生産体制づくりが始まりました。地元の粉は、利きソバでも香りが違うと評判がよく、他のソバ産地の粉と比べても遜色がないという評価をもらっているそうです。郊外の五辺地区や小栗田地区のソバ畑では、ちょうど白い花が咲き始め、見事な景観をつくり出していました。
撮影/'98.9.15・'01.9.23
シナノキ [ハチミツの花]
クマが出たようです。シナノキの採ミツの様子を見せてもらおうと、北海道島牧村を訪ねたのは7月下旬。島牧に着いたとき、転地養蜂家・光源寺さんを猟友会の人が訪ねてきました。ハチミツがクマの大好物とは聞いていましたが、身近な話として聞くと緊張感も出てきます。巣箱の設置場所を見せてもらうと、ふれると電流が流れる電柵が周囲を取り囲んでいました。北海道の養蜂家も毎年、クマの被害に遭っているそうです。「一番の要因はクマのすむ場所がないということ。山に入ってみると、実をつけない針葉樹が植林してある。食べ物がないから、クマはどうしたって人里に出てこなきゃいけないわけですよ」。クマも食料がなければ、生きていけないのです。
今、猟友会の人からクマに注意するよう言われたばかりなのに、光源寺さんは平気な顔をして山へ入ろうと言います。遠目では緑に覆われた山ですが、中に入ってみると枯れた木がところどころ目に付きます。大陸から偏西風に乗って運ばれる硫黄酸化物が原因ではないかと考えられているのだとか。日本海側だと、酸性雪が冬の間そこにとどまるため、影響が大きいようです。
島牧ではシナノキが林道から離れたところにあったので、間近で花を見ることができませんでしたが、3年後の夏に自宅近くで見ることができました。街路樹がシナノキで、ちょうど花を咲かせていたのです。近づいてみると、ミツバチがミツと花粉を集めて飛びまわっていました。街路樹もよく調べてみれば、ミツ源となる木がそこかしこに植えられているかもしれません。シナノキの花は、初夏から夏へと移り変わる時期、少し緑がかった黄色い花を付けます。近づくと、かすかに爽やかな甘い香り。葉はハート形で先が急に細くなり、縁に鋸の歯のようなギザギザがあります。たくさんの小さな花が付く長く垂れ下がった柄には、幅の狭いプロペラのような包葉が付いていて、種が風で運ばれやすくなっています。
やや黄褐色ではっきりした香りがあり、野性味のある甘みを持つシナノキのハチミツ。意外なことに、タバコの香り付けに使われているのだとか。JT日本たばこ産業のホームページを見てみると、「たばこ添加物リスト」に、確かに香料として記載されています。味ではなく、香り付けというのが驚きですが、シナノキハチミツならではの使い方ともいえます。ハチミツの使い方も、工夫すればまだまだありそうですね。撮影/'05.7.23・'08.6.18
ナシ [くだものの花]
昨夜から降り続いていた雨は、朝には上がったものの、どんよりとした雲が立ちこめています。周囲12kmの東郷池畔にある鳥取県湯梨浜町(旧東郷町)は、なだらかな丘陵地に二十世紀ナシをはじめとした大果樹園が広がるくだものの産地。「東郷町らしいナシ畑の風景ですか? 写真を撮られるんでしたら、東郷池に面した『のきょう』という地区がいいと思います」と、役場の方に教えていただきました。漢字で書けば「野花」、ロマンティックな地名です。
東郷町に着いて、さっそく東郷池ほとりの野花へ。池のほとりから振り返ると、小高い丘の斜面に白い花が咲いた一角を発見。おそらくナシ畑でしょう。あそこからならナシの花と東郷池を、一枚の写真に納めることができそうです。公共の駐車場に車を留め、山に続く小道を上りました。ナシ畑で農作業をしていた農家の方に伺うと「うちの畑は、花は終わったけど、この手前の畑がまだ咲いていると思う」とのこと。細い脇道を見つけ、上っていくと花が満開のナシ畑が広がっていました。
ナシ畑はかなりキツい急斜につくってあります。しかも、ナシ棚が低く、腰を曲げないと頭が付いてしまう。この方が収穫がラクなのかな。でも、農作業は大変そうです。畑仕事をしていたおじさんが向こうに見えたので、大声と身ぶり手振りで写真を撮らせてもらおうと頼みました。それに気づいたおじさんは、ニコニコと穏やかに笑いながら首を縦に振ってくれます。二十世紀ナシかどうか訊ねると、「一番手前の木だけ幸水だけど、あとは二十世紀」とだけ言って、また黙々と畑仕事を続けます。おじさんが移動すると、葉に隠れて姿が見えなくなりました。
爪先立つとナシ棚から頭が出、枝先の花が目の当たりになります。枝先に数個の白い花をつけ、中心の蕾が最初に開き、外側に向かって順に開いていくナシ。花の真ん中から雄しべが伸び、花粉の入った赤い葯がアクセントになっています。よく見ると、とてもかわいい花です。そのナシの花越しに東郷池が見えました。これで、晴れていたら文句ないのですが……。
撮影/'00.4.20東洋ニンジン [野菜の花]
高松市から坂出市に入り、国道11号線から橋を渡って対岸へ。市役所から送っていただいた地図には、ニンジンの採種畑に×印がつけてあるのですが、土地鑑がないためなかなか採種畑を見つけられません。何度か行ったり来たりし、勘を頼りに車を走らせると、前方に白い花が咲く畑が見えてきました。ニンジンは、茎の先に白い小さな花が傘状に集まって咲きます。畑まで来て見てみると、どうやらニンジンの畑のようです。ただ、近所の家庭菜園で咲いていた、小さくて可憐なニンジンの花とはあまりに違います。大人の背丈よりも高く、茎も太くて逞しい。甘〜い香りが周囲を包み、その香りに誘われて集まって来た虫たちが、しきりに花に顔を突っ込んでいます。これは本当にニンジンの花?
採種畑は坂出市内に数か所あるといいます。他の畑を確かめてみようと、高松市との境にある畑を探しに行ってみました。ここも背の高い大輪の菊のようなニンジンの花が咲き乱れています。花としては盛りを過ぎているようで、白がくすみかけている花もあります。一段高いところに上ってニンジンの花を見ると、向こうの方に坂出港と瀬戸大橋がかすかに望めました。
「新潟から来たの?」。畑で作業していたお母さんに、ニンジンの畑であることを確かめ、新潟から来たことを告げると驚いたような顔をしました。観光地ならともかく、畑以外何もない町はずれに、滅多にお目にかからない県外ナンバーの車を見つければ、驚くのもムリないかも。お母さんが畑の中へ入っていくと、姿が隠れて見えなくなりました。ニンジンが赤いから「金時」の名があるのでしょうが、この花の力強さこそ金時の名にふさわしいかもしれません。
撮影/'01.6.7
チンゲンサイ [野菜の花]
散歩していると、花が満開になっている畑がありました。そんなに広くないので、おそらく個人の畑でしょう。さまざまな花が列になって咲いていて、野菜の花に違いありません。中でも、ひときわ鮮やかな黄色の花を咲かせていた一角がありました。菜の花のようですが、よく見るナタネとは違うようです。次の日、カメラを持って再び畑を訪れると、畑の持ち主らしきお母さんがいたので、何の花か訊いてみました。答えは「チンゲンサイ」。忙しくて収穫できずにいたら、花が咲いてしまったとのこと。お母さんにとっては、収穫できずにおいしいチンゲンサイを食べ損なったのは残念ですが、おかげで貴重な花を家のすぐ近くで労せず見ることができました。
チンゲンサイはアブラナ科の中国野菜。葉は丸みを帯び、お尻の部分が張って愛らしい姿をしています。耐暑性が強く、ビタミンやミネラルをバランスよく含む、栄養豊富な野菜です。お浸し、和えもの、クリーム煮など、幅広く利用できます。冬の低温に当たり、春になって気温が徐々に上がって暖かくなると、一気にとう立ちするのがアブラナ科の野菜の特徴で、この鮮やかな花色が目を引くチンゲンサイのほかにも、畑にはとう立ちしたキャベツ(下左)やダイコン(下右)が花を咲かせ始めていました。
葉菜類のとう立ちは、種採り目的か収穫し忘れでないと見られないので、とても貴重です。少なくなったとはいえ、少し散歩がてら足を伸ばすと、この辺にも畑がまだ広がっています。米どころ新潟は田んぼがどこまでも続いて、独特の風景をつくり出していますが、野菜も人気の高い枝豆やナス、トマトなどの畑は多いです。農家がつくるそうした畑に混じって、市民農園もあり、定期的に脇を通ると、蕾だったものが花が咲いたり、花が散って実ができてきたり。畑で野菜を育てている人は、収穫はもちろん、そうした生長の過程も楽しいのかもしれませんね。
撮影/'11.4.30